
クリエイティブアントレプレナーを紐解く|インタビュー#1 大加眞資|ASIBA
ASIBAは「問いと実践を往復する過程で育まれる、内発的な創造力やリーダーシップ」を「クリエイティブアントレプレナーシップ」と定義しています。これまで文化を生み出してきた建築家やデザイナー、アーティスト、職人、技術者たちは、自らの社会への問いやものを作ることへの好奇心を形にし、社会に提示し続けることで、明らかではなかった問題に挑んだり、社会変革を生み出してきました。私たちASIBAは「クリエイティブアントレプレナーシップ」を持つ若者やアクションを増やすことで、不確実で複雑な社会の問題を解決できると考えています。 「クリエイティブアントレプレナーを紐解く|インタビューシリーズ」ではASIBAが注目する若手のクリエイティブアントレプレナーを招き、自身の活動のバックグラウンドやどのような「問い」や「社会課題」に「なぜ」向き合ってきたのかを深掘ります。
#1 大加眞資(武蔵野美術大学デザイン情報学科)
大加眞資 武蔵野美術大学デザイン情報学科、ActivityPub庁、TDA他 演劇などの空間演出に出自をもつが、様々なスキルをブリコラージュして遊んでいる。最近はVRにはまっている。過去作品:『静脈街区』『CCC』『epa!』『水道郷』他、現在進行中:『LiVS VRMV』『ラジオでのびたいっ!』『Nanaha Haga パフォーマンス』他
大加眞資が手がける「静脈街区」とは何か?
地方において深刻な空き家問題と、学生アーティストの表現の場が少ないという問題を、空き家を舞台とした芸術祭を行うことで双方向に解決する試み。“空き家”というエネルギーが枯渇して使われなくなった場所に、“学生”という酸素を送り込むというイメージが、酸素を取り込んだ新鮮な血液を運ぶ肺静脈と重なり、プロジェクト名を「静脈街区」と名付けました。

地方の空き家を活用して、普段アートに触れる機会が少ない人にも届けられる場を
ー活動を始めたきっかけ、どのような問題意識が原動力になっていますか? 活動を始めた一番のきっかけは、TOHOシネマズ学生映画祭の運営に関わっていたときに、本庄市出身の田島くんと出会ったことです。当時、僕はアーティストとして活動したいけど、展示場所が少ないことに困っていて、田島くんは地元に空き家があるから活用できないだろうかと話していたんです。そこから、互いの問題意識をマッチングできないか? という流れで企画が始まりました。 最初のモチベーションとしては、空き家そのものへの興味が大きかったです。通学路で見かける廃墟みたいな家、ちょっと不気味だけど探検したくなるような感覚があって、「空き家って面白いな」と思っていました。ただ、その一方で、日本全体の空き家問題も深刻で、放置すれば地域の空洞化につながる。だから単純に「空き家が面白い」だけじゃなくて、ちゃんと活用することで社会的な価値や空き家への意識も生まれるんじゃないか、と考えるようになりました。
もうひとつの課題は、展示場所の不足です。都内で展示しようとすると、ギャラリーを借りるのに何十万円もお金がかかるし、予約も埋まっていて、なかなか入り込めない現状があります。良い作品を作っているアーティストはたくさんいるのに、発表の機会がないのはもったいない。であれば、地方の空き家を活用して、普段アートに触れる機会が少ない人にも届けられる場を作れたら良いのではないか、と考えたんです。

実際、都内のギャラリーだと基本的にアートに興味がある人しか来ないけれど、地方で開催することによって「空き家で何かやってるらしい」という好奇心が発端となって、普段アートに触れない人も足を運んでくれるかもしれない。それが地域の活性化にもつながるし、アーティストにとっても新しい表現の場になる。そういう想いが重なって、この活動が動き出しました。

中産階級出身で美大に行くことの難しさ、親の期待と自分の選択の間でどう折り合いをつけるか、美術を続ける意味って何なのか
ー活動を続ける中で大切にしている価値観や哲学は何ですか? それはどのような経験から生まれたものですか?
もともと僕は美術大学に行くようなタイプではなかったんですが、高3のときに美大に進もうと決意しました。 そのときに出会った吉本隆明さんの言葉が今でも心に刺さっています。『高村光太郎』という本の中に、こんな一節があります。
「もちろん、芸術というものが豊富な物質的基礎と、閑暇のうえにしか開花しないものであるとするならば、芸術を志す貧乏息子は、りちぎものの父親の金をだましとっても、ブルジョワ息子を範とするよりほかない。それでは、自分はおよばぬまでも、息子だけは、という発想をするこの父親は、否定されねばならないか。むろん、そのいじらしい心理が否定されねばならないのだ。(中略)この貧乏息子は、いじらしすぎる父親を否定するとともに、ブルジョワ息子にも昂然と対峙しなければならなかった。」
貧乏であっても、親の期待に反して、芸術を目指すことが必要か悩んでいた僕は、この言葉にすごく共感したんですよ。僕の家も、いわゆる安定した道を歩んでほしい、という親心がありました。それは純粋な親の思いで、悪意はありません。いい大学に行って、いい会社に入って、普通に家庭を築いて……っていう。
でもそれは純粋すぎじゃないか。本当にそれに従っていいのか。一方で、それを選ばずに美大に行ったら、今度は周りにお金持ちの子が多くて。だから、親の期待を否定するだけでもなく、ブルジョワ的な美術のあり方にも飲み込まれず、自分なりの道を探すべきなんじゃないかって、ずっと考えています。 僕の制作の根本には、そういう悩みがずっとあります。中産階級出身で美大に行くことの難しさ、親の期待と自分の選択の間でどう折り合いをつけるか、美術を続ける意味って何なのか……。そういう葛藤が、僕の価値観の礎です。
私たちの取り組みは「外からの押し付け」ではなく、「地域の課題に寄り添うもの」として受け入れてもらうこと
ーこれまでに直面した最大の困難は何でしたか? その壁をどう乗り越え、何を学びましたか? 多くの壁にぶつかりました。その中でも一番大変だったのは、地域の人々との関係構築です。例えば、「空き家が増えているので芸術祭を開きませんか?」と提案すると、こちらとしては課題解決の一環のつもりでも、「あなたたちの街には問題がありますよね?」と指摘するような形になってしまうことがあるんです。
行政に協力をお願いする場合も、空き家の増加を公式に認めることになり、受け入れにくい場合もある。幸い、田島くんが、地元出身だったことが大きな助けになりましたが、地域によっては反発もあっただろうなと思います。彼が橋渡し役をしてくれたおかげで、私たちの取り組みは「外からの押し付け」ではなく、「地域の課題に寄り添うもの」として受け入れてもらうことができました。
もう一つ大変だったのは、美術作家の募集とスケジュール管理です。何十組もの作家を集める必要があり、そのために都内の美大にパンフレットを送付し、電話で確認を取るなど地道な作業を重ねました。加えて、作家さんたちのスケジュール管理も大変でした。アーティストの方は自由な方も多く、予定が急に変わることもあるので、進行をしっかり管理しなければなりませんでした。
そして、資金調達のためのクラウドファンディング。これも予想以上に難しかったです。「学生が頑張っているから支援が集まりやすいのでは?」と思われがちですが、そんなに甘くありませんでした。
私たちも、最初は「クラウドファンディングを通じて、知らない人からも支援が集まるのでは」と期待していましたが、実際に支援してくれたのは、ほとんどが知り合いや関係者でした。むしろ、身近な人からの支援だからこそ、「この人たちの気持ちに応えなければ」とプレッシャーも感じました。
本当に自分がその問いを問いだと思っているのか?
ー活動の中心にある問いはなんですか? なんだか、すごくメタ的な話になってしまうかもしれませんが、本当に自分がその問いを問いだと思っているのかどうか、という問いでしょうか。
本当にそう思っていなければ、やりきれませんし、なんだか表面的で嫌だなと感じてしまいます。もちろん、もっと具体的な問いもあります。ただ、私のベースにあるのは、自分自身の生活に関わる問いです。実存的な問いというと少し大げさかもしれませんが、そうしたものが根本にあります。
それは、ある意味で傲慢かもしれません。 自己中心的ですし、もっと社会のことを考えるべきでは、という気持ちにもなります。けれど、共同体という単位を考えたとき、一番小さな単位の共同体は自分自身で、それに向き合い、その問いが本当に自分の内側から生まれているのかを確かめることが、大切だと考えています。その問いを深めていくと、やがて社会の問題にもつながっていく感覚があります。
たとえば、自分自身のことを考えていると、家族のことに行き着き、そこから社会の構造が見えてくることがあります。私はもともと環境問題や政治、都市の課題にはあまり関心がありませんでしたが、自分の問題を掘り下げていくうちに、自然とそうした社会的な問題にも興味を持つようになりました。自分という共同体に真摯に向き合えているか向き合わない限り、活動それ自体もどこか空回りしてしまう気がします。
直近での生産性は生み出せないかもしれないけれど、周りを回って、実は後から見るとものすごく生産性を生み出すことがある
ー活動の独自性について教えてください
まず、姿勢ですね。一般的なアプローチと大きく違うのは、基本的に無駄なことをしている、ということだと思います。 つまり、すごく生産性がないんです。何かを作っていること自体には生産性があるように見えるかもしれません。しかし実際には、その作ったものが直接的に社会に効果をもたらすわけではないんです。むしろその「無駄さ」を、どこか社会の余裕から担保してもらわないといけない。例えば、現代美術業界では、高資本の人たちが美術品を買いますよね。それが、資本主義社会の中で余裕のある部分、つまり資本家たちの財布から美術が成り立っている部分だと思うんです。 このような美術の独自性は、僕たちの活動にも通ずるところだと考えています。生産性がないように見えるものが、直近での生産性は生み出せないかもしれないけれど、周りを回って、実は後から見るとものすごく生産性を生み出すことがある、そんな視点を持っているところが、僕たちの独自性です。 一般的には、もっと生産性を意識して、利益を出すことを目指すことが多いですが、僕たちはそれが全てではないという見方が一貫した制作の姿勢になっています。
一人になりたいなっていう欲望と、むしろもっと共同体として、みんなと仲良くワイワイ制作していたいっていうその釣り合いをうまく取っていけるような共同体を作る
ー今後挑戦したいことや構想しているアイデアはありますか? それが実現すると、社会や都市のあり方はどう変わると思いますか?
静脈街区は、次もやりたいとは思っているけど、やれないんじゃないかとも思っています。「今だからできたこと」っていうのは再現性がないんです。本当にそのときの謎の熱量や状態があったからこそのもので、もしもう一度同じことをやれと言われても、無理だろうな、と。
学生って時間があるじゃないですか。でもこれからもし就職したとして、時間はだんだん少なくなりますよね。だから、例えば夏休みのような長期間を使ってプロジェクトをやることは、相当大変になると思います。そう考えると、静脈街区ができたのは本当に学生だったからこそできたことだなと思っていて。
今後の話で言うと、個人的には都内にコミュニティスペースを作りたいと思っています。静脈街区はイベントが単発で行われてしまうので、ある程度継続的に人が集まるような仕組みを作りたいんです。何かしら、持続的に人が集まり続ける場があったら、すごく面白いと思うんです。 でも、こういう共同体って、実際やってみると難しいことがたくさんありますよね。コミュニティって簡単に作れるものではないし、問題もたくさん出てきます。突然誰かが来なくなったり、喧嘩が起きたり、いろいろなことがあると思うんです。その波をどう乗りこなしていくか。
一人になりたいなっていう欲望と、むしろもっと共同体として、みんなと仲良くワイワイ制作していたいっていうその釣り合いをうまく取っていけるような共同体を作るってのはすごい難しいことだと思う。けれど、そこに挑戦していきたいという意思はありますね。
Interview:佐野陽菜 2007年 東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部 新1年生。 京丹後市へ地方留学に訪れたことを契機に、「日常風景への憧憬」を抱き、「センス・オブ・ワンダー」へ誘われる。ここでの体験を端緒に、「〈場所〉の記憶」可視化の実践を開始。2024年2月にデジタルアーカイブ「LOCAL LOG」を制作。現在は再開発が進行する地域をフィールドに、地域性のある音を可聴化したメディアアートや展示会の運営に携わる。目指すは、”〈場所〉の記憶が都市空間に溶け込まれた社会”。
Design:森原正希 東京生まれ、早稲田大学建築学科卒。大学在学中には海外インターンシップと若者へのリーダーシップ開発を営むAIESECにて日本支部事務局長を務め、その後XRスタートアップ、建築設計事務所、デザインファームなど建築を起点に領域横断する活動経験を経て、建築都市分野にアントレプレナーシップを育む一般社団法人ASIBAを共同創業。また早稲田大学建築学科にて研究業務を担当。WIRED Creative Hack Award 特別賞、グッドデザインニューホープ賞、緑の環境プラン大賞などのクリエイティブアワード等を受賞多数。
ASIBA(https://asiba.or.jp/)は「クリエイティブアントレプレナーシップ」を発揮して活躍している若手の建築家/アーティスト/デザイナー/起業家をゲストを招いて、彼らの最新のプロジェクト、またそれらを踏み出した内発的な動機や自身のバックグラウンド、高校〜大学時代の過ごし方、悩んでいたこと、考えていたことなどを話してもらうライトニングトーク、そしてオープンなパネルディスカッションを随時開催しています。 クリエイティブを志す学生や若手をエンパワーし、クリエイターとして新しい生き方や可能性をこの場所から考え、「自分でもできる!」「こうやって生きてみたい!」「自分でも作ってみたい!」という内発的な気持ちを育み、共有していくことを目指してます。
一般社団法人ASIBA(https://asiba.or.jp/)は、クリエイティブ領域に身を置く30歳以下を対象として「問いと実践を往復するクリエイティブ・アントレプレナーシップ」を育み、社会実践を目指す、ASIBA Creative Incubation Program 3期を2025年4月から開講いたします。また、本日より参加者の募集を行っています!ぜひご確認ください!