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【特別インタビュー】 構造に挑むデザインの倫理観 — 公共とデザイン 石塚理華さん|ASIBA

【特別インタビュー】 構造に挑むデザインの倫理観 — 公共とデザイン 石塚理華さん|ASIBA

── 11月21日(金)、渋谷QWSで開催する1dayカンファレンス「Towards Creative Entrepreneurship ークリエイティブ領域における社会実装の可能性と、その方法論を問う」。今回は、その第2部「動かない社会をどう動かすか 構造に挑むためのアントレプレナーシップとは?」に登壇される公共とデザイン・石塚理華さんにお話を伺います。

石塚 理華 氏 一般社団法人 公共とデザイン 共同代表 〈多様なわたしたちによる新しい公共〉を目指し、ソーシャルイノベーション・スタジオ「公共とデザイン」を設立。企業・自治体・住民・課題の当事者と手を取り合い、民主的社会環境(クリエイティブデモクラシー)を耕すための取り組みに従事。渋谷区とのイノベーションラボ設立支援や、〈産む〉にまつわる価値観を問い直すプロジェクト『産まみ(む)めも』など。共著に『クリエイティブデモクラシー』(2023年、BNN)

キャリアの転換点と、デザインの倫理

ASIBA 髙野: セッション2は市民参加や行政領域など、明確な「マーケット」が存在しない分野で実践をされている皆様をお呼びして、「社会をどう変えていくか」というセオリー・オブ・チェンジやアントレプレナーシップのあり方を議論したいと考えています。

ASIBA 森原: 石塚さんは、自治体とのワークショップやデザインコンサルティングに近い領域でインディペンデントに活動されています。そのような実践のあり方に至った背景、キャリアについてお聞かせいただけますか?

石塚: 元々、大学ではサービスデザインやインタラクションデザインを学んでいました。私が学んでいたデザイン科は当時大手メーカーに進むのが主流で、デザインの中に公共的な側面は内包されつつも、「ビジネスに立脚したデザイン」を学ぶのが当たり前でした。

転機になったのは、留学中に行政とプロジェクトを行った経験です。当時は、日本語で「公共 デザイン」とGoogle検索すると、チラシや建築しか引っ掛かりませんでしたが、「ソフトの社会インフラ」を作る仕事の可能性に気づきました。

ASIBA 森原: 帰国後、すぐにその道に進まれたのですか?

石塚: いいえ、当時はそうした仕事が求人になく、ビジネスサイドから社会インフラを作ろうと考え、大手事業会社に就職して2〜3年働いていた際に、違和感が大きくなっていきました。

当時は「良いデザインとは、ビジネスに貢献するデザインだ」という価値観が主流でした。特にWeb業界では数値で結果が出るため、グロースハックが重視されていました。しかし、そのサービスを使った人が、そのデザインに携わった人が本当に幸せになるのか?自分が学んだデザインはそういうものだっけ…?と、根本的な問いが抜け落ちたままデザインの良し悪しが語られる状況に、危機感を覚えていました。 最終的に当時同じような違和感をもっていた共同代表の川地・富樫と「公共とデザイン」の活動をはじめました。

ASIBA 森原: 確かに、建築や伝統的なデザイン教育の中には、無意識的かもしれませんが職業倫理が織り込まれている気がしますね。

課題の構造に介入する、渋谷区とのプロジェクト

ASIBA 髙野: 石塚さんは普段自治体とお仕事をされることが多いと思いますが、どのような課題を見出し、構造化し、アプローチされているのでしょうか?

石塚: 課題を構造的に捉えて介入するプロジェクトの事例として、渋谷区との取り組みがあります。

渋谷区では、私たちが行政の「中」に少し入りつつ、区の「外」と繋がって実証実験を行うチームを組んでいます。アジェンダ設計のため社会状況をシステミックに捉えるための各専門家や当事者を交えたリサーチや、課題に対する機会をポートフォリオのように取り扱う「ポートフォリオアプローチ」の実践などにチャレンジしています。

上記のアジェンダ設定にまつわるプロジェクトは前期のテーマで実践したので、今期のテーマではそれらを実行することに重心をおいたプロジェクトを行いました。「デフリンピックをきっかけに、​どんな生活に、渋谷に、変化していけると良いのか?​」という問いをもとに、「理想の風景づくり」と「その理想の風景を実現化するための入口づくり」を行いました。具体的にはまず、ろう・難聴者の若手社会人向けの職場体験を、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社 渋谷・表参道ディストリクトのみなさまと実施しました。店舗に訪れたお客さんからすると、ふとたまたま入ったお店の中でろう・難聴の方々が​当たり前に接客している様子を目撃・知る​ことができるかもしれない。それがろう・難聴の方々をとりまく社会の状況に関心を持つきっかけになるかもしれないし、新しい機会が生まれてくるかもしれません。また、プロジェクトでは、そこから発展させ、こういった風景を作るための入口づくりとして、「コミュニケーション」という文脈で、アパレルや渋谷の観光にまつわる企業・新規事業開発に興味がある企業など11社へお声がけして、「無言語コミュニケーション」研修を行いました。こちらは、ろう・難聴の子どもたちへの支援を行っているサイレントボイスさんにご協力いただきました。特定の課題をひらいていく1つのアプローチとして身体的な体験があり、まちのなかにそのような状況を生み出す機会を点在させることに意味がありそうです。

ソーシャルイノベーションの起こし方

ASIBA 髙野: 渋谷区とのプロジェクトについて、もう少し深く聞かせて下さい。このような取り組みを通じ、ろう・難聴についての社会的理解が深まっていくと思います。一方で、ろう・難聴の方々ご自身には、どのような変化があったのでしょうか。

石塚:ろう・難聴の方々が社会で置かれている状況について知る中で、就労機会の幅の少なさを知りました。就職活動になると、職種の機会はどうしても事務方や工場などの仕事に偏りがちです。そうした状況の中で、当事者自身は「自分は接客などできない、関係ない仕事だ」と思い込んでしまいます。

そこで私たちは、スターバックスの協力を得て、職場体験の機会を作りました。スターバックスさんのすごいところは、渋谷の店舗で実際に働くデフのパートナーさん(店舗スタッフ)が、レジ打ち、商品提供など含む聴者と同じ仕事を既に行っていることです。そのため、今回の職場体験では、デフのパートナーさんたちが中心となって職場体験に参加した学生たちにOJT的に伴走していただきました。 参加した当事者の子からすれば、「こんなことできるんだ」と自信を持つことができる。接客だけではなく、「様々な場面で自分はできないかもしれない」という前提が覆り、「できるかもしれない」と思えるのです。

これは、必ずしも新しい事業や活動を生むためではありません。就職という枠を超えて、その人なりの機会を開くこと、あるいは生活が変わっていくきっかけになるかもしれない。プロジェクトや場をきっかけにしながら一人ひとりが「できるかもしれない」「やってみよう」と思えることから始まることも多いですし、そこからしか「ソーシャルイノベーション」にはつながらないのではないかと感じています。

ASIBA 森原: 『クリエイティブ・デモクラシー』で紹介されている「ライフプロジェクト」を個々人がどう見つけるか、どう制限されない環境を作るか、ということですよね。

石塚: そうです。今回の主題となっているアントレプレナーという意味では、ライフプロジェクトのひとつとして「起業する」という選択肢があってもいい。でも必ずビジネスを起こすことがすべてじゃない、とも思います。このあたりは、石川さん(for Cities)の活動とも共鳴しているところかもしれませんね。

ソーシャルイノベーションには2つの段階が必要だと考えています。1つは、その「衝動」が生まれるきっかけを増やすこと。もう1つは、その「衝動」を実現するための環境を整えることです。

今、世の中にはLiquidのようなプラットフォームや、参加型予算のような「インフラ」は少しづつですがいろいろな方の尽力を経て整ってきました。しかし、そもそも「自分は何をしたいのか」という「欲望の形成支援」が決定的に不足しています。そして、その「欲望」と「インフラ」をつなぐ「パス」も存在しない。私たちは、その設計が重要だと考えています。まだまだ我々も探索段階ですが、当日はそうした議論ができるといいですね。


11/20開催イベントの概要

『Towards Creative Entrepreneurship ークリエイティブ領域における社会実装の可能性と、その方法論を問う。』

Embedded Asset

マーケットや経済合理性だけでは解決が困難な物事に溢れた、いまの社会の中で私から始まる美学や感性、そして私たちを捉える社会への想像力を強いモチベーションに、ポジティブな未来社会を構築していくための、新たな選択肢をいま提示していくこと。 その実践的な行動や社会実装こそが、建築や都市、デザイン・アート領域の本来の価値であり、「クリエイティブ」という概念と姿勢のリバイバルなのではないだろうか。 いまこの瞬間にも、歴史上のクリエイターたちを超えて、数十年後を見据えた新たな文化を生み出す可能性を秘めた、独自の感性と熱意を持つ人々が確かに存在している彼らがクリエイティブ・アントレプレナーシップを発揮し、この混沌とする社会に新たな選択肢と希望を生み出していくためには、新しいエコシステムやファイナンススキームをデザインし、既存の業界構造や制度、仕組みをしなやかに変革していく必要がある。 “Towards Creative Entrepreneurship”

創造的な社会を、ここからデザインしていくために。 さあ、一緒に議論を始めよう。 日程:2025年11月21日(金) 13:00-20:40 主催:ASIBA、@カマタ 協力:一般社団法人デサイロ 後援:NPO法人ETIC. 会場:SHIBUYA QWS(渋谷スクランブルスクエア15F) 定員:各セッション最大50名/途中入退場可能 お申し込み:https://creative-entre.peatix.com/view