
【特別インタビュー】 「終わりのデザイン」から始まった、都市体験をつくるアントレプレナーシップ — for Cities 石川由佳子さん|ASIBA
── 11月21日(金)、渋谷QWSで開催する1dayカンファレンス「Towards Creative Entrepreneurship ークリエイティブ領域における社会実装の可能性と、その方法論を問う」。今回は、その第2部「動かない社会をどう動かすか 構造に挑むためのアントレプレナーシップとは?」に登壇される、for Cities・石川由佳子さんにお話を伺います。
石川 由佳子 氏 アーバン・エクスペリエンス・デザイナー (都市体験デザイナー)/ アーバニスト 「自分たちの手で、都市を使いこなす」ことをモットーに、国内外の様々な人生背景を持つ人たちと共に、市民参加型の都市体験のデザインを行う。( 株 ) ベネッセコーポレーション、( 株 ) ロフトワークを経て独立。都市体験のデザインスタジオ「一般社団法人 for Cities」を立ち上げ。同社団法人、共同代表理事。場のデザインプロジェクトを、東京(三菱地所/Sony Park miniなど)、京都、神戸(神戸市 / KIITOなど)アムステルダム、カイロ、ホーチミン、チェンマイなど国内外の複数都市で手がける。まちとみどりとの関係性を再編集する街路樹のデータプラットフォーム「Dear Tree Project」主宰し、地域や行政と組んだまちのみどりの利活用を行う。みどりを取り巻く仕事 のこれからを考え創造していく一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会理事。神田にコミュニティ拠点「watage」を立ち上げ、ユース世代のためのアーバンデザインスタジオとして活動を実施。リサーチ、企画、編集、教育プログラムの開発など、都市をテーマに行なう。 WIREDが選ぶ「リジェネラティブ・カンパニー・アワード2023」受賞。都市の中で、一番好きな瞬間は「帰り道」。
デザイナーとアントレプレナー、その意識の境界
髙野: 石川さんは記事などを拝見していても「デザイナー」としての意識を強く感じます。一方で、ご自身の中での「アントレプレナー」としての意識やマインドは、どのような位置づけなのでしょうか?
石川: アントレプレナーとしての意識について、実はこれまであまり質問されたことがなく、深く意識したこともありませんでした。なぜfor Citiesが法人化して活動しているのかというと、発端はプロジェクトの関わり方への違和感でした。当時、様々な街にクライアントワークとして関わっていたのですが、それはあくまでクライアントのプロジェクトで、自分たちで「終わり」を作れないことへの違和感がありました。
街づくりや状況を作っていくことは、特定の数値を達成したら終わりという明確なゴールがなく、柔らかく、長いものです。私にとって、その終わりを自分でデザインできないことが、街を考える上で最大のフラストレーションになっていました。そこで、本腰を入れて自分たちで責任を持って活動を社会に提示していくために起業しました。
地域の取り組みが疲弊して残念な終わり方をしたり、プロセスが可視化されないまま終わるのをしばしば見てきました。「終わり」とは、全てが終了することではなく、次の展開に進むための「節目」だと捉えています。その節目をいかにクリエイティブに作れるのか。これまでは都市を「作ること」がメインでしたが、今後はスクラップアンドビルドで新しい建物を作れなくなる社会が訪れます。その中で、今あるものをどう活用するか、どう次につなげる終わりをつくっていくか、あるいはどう環境に戻していくか。そういった部分のデザインが、これから非常に重要になるはずです。
パブリックマインドの最小単位は「個人の暮らし」
髙野: 私自身が都市計画に関わっていて感じることですが、「パブリックマインドの醸成」や「都市体験」といったテーマは、社会のクリティカルなアジェンダと比べると、少し抽象的で「ふわっとした」表現にも聞こえがちです。石川さんがあえてこの領域に向き合う意義や、活動のきっかけはどこにあるのでしょうか?
石川: 「都市」と聞くと大きなものに聞こえますが、私は「個人の生活風景を作る」「暮らしを作る」ことが、都市体験の最小単位だと捉えています。私たちの関心は、いかに都市に主体的に関わる個人(=アーバニスト)が各地に広がり、そうしたマインドが育まれる環境を地域でデザインできるか、という点にあります。
私は基本的に、どのプロジェクトも自分ごととして捉えています。自分自身、あるいは自分の周りの暮らしを良くしたい、「自分がこういう風景を見たいから」という感覚が活動の原点であり、モチベーションです。例えば「1億人全体のパブリックマインドを育てる」というよりは、まず私自身がそうありたいし、一緒に活動する仲間にもそういうマインドが育まれてほしい。そのように「小さな渦を広げていく」イメージで活動しています。
なぜネットワークを作るのか? ローカルの実践知を繋ぐ
髙野: 石川さんは“for Cities.org”のようなアーバニスト・ネットワークの構築を初期から大切にされています。これにはどのような意図があったのでしょうか?
石川: for Cities.orgは、現在65カ国ほどのメンバーが登録するアイデアデータバンクのようなプラットフォームになっています。これを始めたきっかけは2つあります。1つは、国内の街づくりプロジェクトに関わる中で、「街を考えるテーブル」に多様性が少ないことへの課題意識です。いつも同じような顔ぶれで議論が進んでしまうことへの違和感がありました。
もう1つは、海外、特にヨーロッパでは、国や立場を超えて都市について考えるプラットフォームや、それを支援する財団が充実していることへの羨望です。アジアでもそういったコミュニケーションが生まれるコミュニティを作りたいと考えました。
目指したのは、「ローカルをグローバルに考える」ことです。例えば、今いる神田の課題と似た状況がフィリピンのマニラにもあり、そこでの実践を参照してプロジェクトを考えています。そういった、ローカルの実践知を国や分野を超えて学び合うダイナミックな動きを作りたいと思いました。世界中に同じ思いで街に向き合う「仲間」と出会い、繋がりから新しい活動を生み出したかったのです。
再開発の「10年前」に介入する意味
髙野: 神田のwatageのように、デベロッパーの再開発予定地に先行して入っていく活動は非常にユニークですよね。このアプローチにはどのような可能性を見ていらっしゃいますか?
石川: 現在、私が拠点の立ち上げから運営まで携わっているwatageというコミュニティ拠点は、10年後に再開発される予定の場所ですが、その10年という長い期間に向けて、デベロッパーと共に場を作っています。
この活動の根底には、先ほどお話しした「街づりのテーブルの多様性のなさ」という問題意識があります。広場のデザインや機能といった意思決定に、小学生や中学生の意見は反映されません。しかし、20年後にその建物をメインで使っていくのは彼らの世代です。
これからの世代がどういう価値観を持っているのかを拾い上げ、大きな計画に載せる橋渡しが重要になっています。watageでの活動や思考実験を通じて、その橋渡しを実践しています。私たち自身も、デベロッパーも、地域全体も、これからの街を考えるテーマを共に学び始めている感覚があります。
ソフトな価値をどう社会に実装するか
髙野: とはいえ、場づくりや運営、ましてや再開発の「手前」から入る活動は、for Citiesのような実績のあるスタジオだからこそできる仕事であり、従来の経済価値に換算しにくいという課題があります。こうした実践を社会に増やしていくためには、何が必要でしょうか?
石川: まさにおっしゃる通り、建物を建てるコストは算出が容易ですが、ソフトな部分の「価値付け」は難しい。だからこそ、こうした活動を評価する新たな「評価軸」を持ち、立場が違うステークホルダー間で共有できる成果を示していくことが重要だと考えています。
例えば、西新宿で始まる別のプロジェクトでは、再開発後の広場のデザインや運用を、暫定利用の空間で先行してテストします。これまでは「できてから」試すしかありませんでしたが、こうした「プロセステスト」や「相性テスト」をもっといろんな場所で、低コストで行えることを示していきたい。そうした「予算化」の新しい意味付けや、企業ミッションとの紐付け方が可能だと考えています。
日本でパブリックマインドを育てるには?
髙野: 最後に、他の登壇者の方々と議論してみたいテーマがあれば教えてください。
石川: 「パブリックマインドの醸成をどう育んでいくか」を話したいです。 以前、渋谷区で「Decidim(バルセロナで実装されている市民参加型プラットフォーム)」のプロジェクトを手伝ったのですが、システムのUIUXは良くても、使う側にディスカッションや主張の文化がなく、うまくいきませんでした。欧米的な民主主義のプロセスをそのまま持ち込んでも難しい。日本には違うアプローチが必要です。
私がオランダのアーバニストから贈られて大切にしている言葉に、”Not too big, not too much” というものがあります。「手の届く範囲」「気持ちが届く範囲」を単位として捉える感覚です。
もはや社会変革のための「大きな物語」は描けません。これからは「小さな物語」にいかに力を持たせるかがアプローチになる。デシディムのようなツールも、規模や範囲との掛け合わせ方次第では、うまくいくかもしれません。
行政区分が生活の区分とイコールではない中で、新しい境界の引き方をリデザインする必要がある。そのサイズ感についても、ぜひ皆さんとディスカッションしてみたいです。
11/20開催イベントの概要
『Towards Creative Entrepreneurship ークリエイティブ領域における社会実装の可能性と、その方法論を問う。』

マーケットや経済合理性だけでは解決が困難な物事に溢れた、いまの社会の中で私から始まる美学や感性、そして私たちを捉える社会への想像力を強いモチベーションに、ポジティブな未来社会を構築していくための、新たな選択肢をいま提示していくこと。 その実践的な行動や社会実装こそが、建築や都市、デザイン・アート領域の本来の価値であり、「クリエイティブ」という概念と姿勢のリバイバルなのではないだろうか。 いまこの瞬間にも、歴史上のクリエイターたちを超えて、数十年後を見据えた新たな文化を生み出す可能性を秘めた、独自の感性と熱意を持つ人々が確かに存在している彼らがクリエイティブ・アントレプレナーシップを発揮し、この混沌とする社会に新たな選択肢と希望を生み出していくためには、新しいエコシステムやファイナンススキームをデザインし、既存の業界構造や制度、仕組みをしなやかに変革していく必要がある。 “Towards Creative Entrepreneurship”
創造的な社会を、ここからデザインしていくために。 さあ、一緒に議論を始めよう。 日程:2025年11月21日(金) 13:00-20:40 主催:ASIBA、@カマタ 協力:一般社団法人デサイロ 後援:NPO法人ETIC. 会場:SHIBUYA QWS(渋谷スクランブルスクエア15F) 定員:各セッション最大50名/途中入退場可能 お申し込み:https://creative-entre.peatix.com/view