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【特別インタビュー】 文化を守るためのインパクト投資のあり方とは ─ SIIF・古市奏文さん|ASIBA

【特別インタビュー】 文化を守るためのインパクト投資のあり方とは ─ SIIF・古市奏文さん|ASIBA

── 11月21日(金)、渋谷QWSで開催する1dayカンファレンス「Towards Creative Entrepreneurship ークリエイティブ領域における社会実装の可能性と、その方法論を問う」。今回は、その第3部「社会変革を見据えた、新たなクリエイティブ・エコシステムを考える」に登壇されるSIIF・古市奏文さんにお話を伺います。

古市 奏文 SIIF(一般財団法人 社会変革推進財団)事業部インパクト・カタリスト 大学卒業後、大手メーカーで製品開発に携わった後、外資系コンサルティング会社にて戦略コンサルティング・M&Aアドバイザリーの経験を積みました。その後、IT企業のコーポレートベンチャーキャピタルや独立系のベンチャーキャピタルにてベンチャー投資に従事し、2018年に当財団に参画。ソーシャル領域のキャピタリストとして活動。はたらくFUND(日本インパクト投資2号ファンド)の立ち上げや、シードアクセラレータープログラムのプロジェクトリーダーを務めました。22年より、インパクト・カタリストとして国内外の先行事例創出・研究などをリードしています。

「文化価値」を経済的に評価するには?

ASIBA 森原: 古市さんはこれまで、珍しいキャリアを歩まれてきたんですね。 古市さん: 大学では当時日本に入ってきたばかりのデザインシンキングという分野を研究し、卒業後はSONYでPlayStation3のゲームや家電の設計に携わりました。 その後コンサルなどを経て、社会を大きく変えるような新しいものづくりやビジネスを行う人を支援したくて、ベンチャーキャピタリストとして活動するようになったんです。 ただ、振り返ると出資したのは、ディープテックやソーシャルテックといった、すぐには儲からないけれど社会的に意味のある投資領域だったことに気づき、今の仕事に移りました。

なので私はデザインのことも、ビジネスのことも、投資のことも、そしてソーシャルのことにも一定の感覚値が持てました。それぞれはスペシャリストには程遠いですが、全く異なる分野の人が使う文脈や言語を正確に理解して、その結節点を描けることが自分自身の強みだと思っています。 ASIBA 森原: 今、若手の建築家やデザイナーの多くが、経済的に厳しい状況に置かれています。経済成長が鈍化するなかで、「文化的なことは後回しでいい」という空気が広がり、自ら表現する場や実践の機会が減っている気がしています、それゆえにクリエイターなのに社会に対してクリエイティブなリスクを取れない。このままでは、多くの人が表現すること、自分で作ること、そのものを諦めてしまうのではないかという危機感を感じています。 古市さん: ファイナンスの視点から言えば、まず「文化資本」という考え方を日本社会にきちんと浸透させることが重要だと思っています。

たとえば福井鯖江の眼鏡屋や岡山倉敷のデニム会社が、グローバルメーカーやハイブランドに買収され始めています。これらの製品は当然「質」が高いから評価されているわけですが、その背景には蓄積としての文化資本の存在があります。

こうした事例に、資本の観点からもっと光を当てることで、文化的な価値が実は大きな経済的な結果につながることが理解できるのではないかと考えています。つまり、長い時間をかけて育まれてきた文化的に価値あるもの、すなわち文化資本が、ファイナンスの仕組みの中でも正当に評価され、資金的なメリットとして反映されるようなシステムをつくるということです。 分かりやすく言うと、文化資本というのは地球に眠る原油資源のようなものだと思っています。日本中に埋蔵されたそれをどう発掘し、どう加工し、どう活用するのか。従来のファイナンスの枠組みでは融資しづらかった企業でも、文化資本を生み出したり、活用するようなビジネスモデルを持っているなら、ファイナンス側からそれを評価し「むしろ投資すべきだ」と判断できるようにする。そうした新しい評価軸を社会に根づかせていくことが、これからのファイナンスに求められていると思います。

文化多様性という新たなゴールを置けるか?

ASIBA 森原: 確かに、日本各地にはまだ掘り起こされていない文化資本が数多く眠っていますよね。地域と協働しながらそれを再編集し、持続的に回していくことができれば、社会的にも経済的にも意味があると感じます。

古市さん: そのためにもまずはマーケットに乗せて、ファイナンスシステムの中にきちんと位置づけることが重要だと思います。もちろん「文化資本はお金にならないから尊い」という考え方もありますが、僕自身は内面や精神の問題として語るだけでは限界があると思っています。 日本の文化が海外で注目されているのは、スピリチュアルな側面だけでなく、明確にビジネスアセットとしてのポテンシャルがあるからですよね。 そういった評価軸をきちんと投資やファイナンスのシステムに組み込むことが、我々のようなファイナンスの人間に課されたテーゼではないかと感じています。 日本には本当に優れたクリエイターが数多くいます。あとは、その人たちが適切なファイナンスと出会い、自分の創造を継続できる仕組みをつくること。それを実現するのは、私たちの責任であり、個人的な思いとしては、必ず成し遂げなければならないことだと思っています。

ASIBA 森原: ひとつ疑問なのは、生物多様性を守ろうという議論は盛んに行われるのに、文化的多様性の重要性については、あまり強く語られない、金融の人たちが語っているところをあまりみたことがないということです。この辺りはいかがでしょうか?

古市さん: 最近は「プルラリティ(多元性)」や「プルリバース(多元世界)」という多元論的なキーワードでそのあたりにも注目され始めています。一方で、確かにこれまでのグローバルの動きを見ると、気候変動が「最大のビッグイシュー」として位置づけられていて、それ以外の課題は副次的に扱われがちなのは事実かもしれません。気候変動から私達の星を守ることが、SDGsをはじめとするさまざまなアジェンダの中心にあると思います。 もう一つはこれはあくまで私の仮説ですが、海外では日本のように比較的同質的な社会は少なく、海外では多文化社会が前提であるため、「自国の文化の独自性」を意識する機会が少ないというのもあるかと思います そうした環境では、文化を中長期的に育てる土壌が意外と限られているように思います。ヨーロッパでもアジアでも、言語はアルファベットで共通化され、食文化も似通っていたりする。 つまり、グローバル化の波のなかで多くの文化が混ぜざるを得ない傾向があると思います。その点で、日本は島国であることもあり、大陸とは異なる変化のリズムと時間軸を持っている、とても特異な存在だと思います。地域ごとに文化集団があり、季節や風土と結びついた文化が今も生きている。そこにこそ日本の強みがあると思います。 たとえば気候変動の分野で日本が今から世界のリーダーになることは難しいかもしれませんが、「文化保全や開発」という価値観の発信においては、日本が新しい流れをリードできる可能性があると思いますね。

100年残るための、ファイナンスの役割とは

ASIBA 森原: デザインシンキングという言葉が登場した背景には「意義」や「意思」を大切にし、社会をより良くしようという発想があったと思います。でも近年は、体制の変化や構造変革を生み出すスタートアップやAIばかりが注目されていて、結果的に格差を広げているようにも感じます。アーティストや建築家が、社会を良い方向に変えたいという思いを持っていても、気づけばシリコンバレー的なゲームの中に飲み込まれてしまっている。そうした現状にどう向き合えばよいでしょうか。 古市さん: 僕も地域でアクセラレーターの審査員をしたり、相談を受けたりしていますが「シリコンバレー流のスタートアップの作り方」みたいなものを地方にそのまま持ち込むこと自体に限界があると思っています。 本当に地域に必要なのは、急成長型のスタートアップではなく、その地域の課題に根ざしたビジネスやファイナンスの仕組みなんです。その一つが例えば「ゼブラ企業」という考え方ですね。ユニコーン企業の対概念として生まれたもので、「必ずしも時価総額1000億円を目指すスタートアップになる必要はない」という発想が根底にあります。 スタートアップではないけれど、ただの中小企業でもない。 地方に目を向けると、そうした「自分たちは自分たちのやり方で社会に貢献している」という誇りを持った経営者が多くいて、彼らがゼブラという言葉を聞いたときに、「そうだ、俺たちゼブラだった」と言うことが増えてきている。このようにゼブラ経営のコンセプトが、地域で少しずつ根づき始めています。 また、通常のベンチャーキャピタルでは難しい案件でも、インパクトファンドなら「やる価値がある」と判断できる場合もあります。ハイリスク・ハイリターンではなく、ミドルリスク・ミドルリターン、あるいはローリスク・ロングリターンといった発想にシフトすることで、より多様な可能性を描けるのではないかと考えています。 ASIBA 森原: クリエイターと研究者も、一見離れた領域のようでいて、根底には共通する視座があるように感じます。研究者は中長期的な視点で「何を解明すべきか」を考え、建築家は「100年後に残るものをつくる」という時間軸を持っていますよね。 古市さん: ファイナンスというと、お金や企業の話に終始しがちですが、本来その視線が向くべき対象は、個々の利益や組織ではなく、社会課題や社会構造そのものだと思うんです。つまり、ファイナンスは本来、文化や自然、社会関係資本といった、お金では測りにくいけれど確かな価値を持つものを支えるための仕組みであるべきだと考えています。 トークイベント当日は、インパクト投資の基本的な考え方から、その先にある社会との関係まで、丁寧に議論できればと思っています。


11/20開催イベントの概要

『Towards Creative Entrepreneurship ークリエイティブ領域における社会実装の可能性と、その方法論を問う。』

Embedded Asset

マーケットや経済合理性だけでは解決が困難な物事に溢れた、いまの社会の中で私から始まる美学や感性、そして私たちを捉える社会への想像力を強いモチベーションに、ポジティブな未来社会を構築していくための、新たな選択肢をいま提示していくこと。 その実践的な行動や社会実装こそが、建築や都市、デザイン・アート領域の本来の価値であり、「クリエイティブ」という概念と姿勢のリバイバルなのではないだろうか。 いまこの瞬間にも、歴史上のクリエイターたちを超えて、数十年後を見据えた新たな文化を生み出す可能性を秘めた、独自の感性と熱意を持つ人々が確かに存在している彼らがクリエイティブ・アントレプレナーシップを発揮し、この混沌とする社会に新たな選択肢と希望を生み出していくためには、新しいエコシステムやファイナンススキームをデザインし、既存の業界構造や制度、仕組みをしなやかに変革していく必要がある。 “Towards Creative Entrepreneurship”

創造的な社会を、ここからデザインしていくために。 さあ、一緒に議論を始めよう。 日程:2025年11月21日(金) 13:00-20:40 主催:ASIBA、@カマタ 協力:一般社団法人デサイロ 後援:NPO法人ETIC. 会場:SHIBUYA QWS(渋谷スクランブルスクエア15F) 定員:各セッション最大50名/途中入退場可能 お申し込み:https://creative-entre.peatix.com/view