
【第二回実施報告】生き物の視点で考える都市デザイン入門 #2|ASIBA
一般社団法人ASIBA(代表理事:二瓶雄太)は、日鉄興和不動産株式会社様、大成建設株式会社様との共催で、全四回からなる「生き物の視点で考える都市デザイン入門」を開講しています。
本noteは、9/28 (金) 15:00-18:00にて開催された、#2の実施報告です。
※現在第二回~四回の参加者を募集しています。応募はこちらから
Veig 片野さんによるレクチャー
最初に、MIT Media Lab で生物学の研究を行い、砂漠再生や都市生態系評価などに携わりながら、現在は造園ユニットveigとして活動している片野 晃輔さんにお越しいただき、ランドスケープの設計理論について、ご自身の実例を交えながらお話いただきました。
片野さんの事前インタビューはこちらから
まず、片野さんは、建物やランドスケープの設計に関わる主体の多さから、自分の役割が何なのかを把握することの重要性について説きました。 片野さん自身はこれまで、ランドスケープの開発が与える生態系への影響や、適切な設計のあり方について生態学的な見地からアドバイスを行ってきました。しかしせっかく研究者が関わったとしても、基本設計が終わってからアドバイスを求めたのでは遅いなど、各主体が適切な役割を果たせるように体制を築くことは簡単ではありません。 そのことから、たとえ設計者であっても、上流から下流までの意思決定の流れ、プロジェクト・マネジメントについて把握することが重要だといいます。

また、各々の役割のみならず、プロジェクトの規模によってどこまでの生態学的な効果を出せるのか、予算や敷地などの諸条件を見て客観的に判断することも不可欠だといいます。 特に大規模な開発とは異なり、中小規模のプロジェクトの場合は、生態系について厳密に取り組むリソースが限られたり、それを評価する枠組みがなかったりすることが多く、むやみに生態学的な話を取り入れようとしてしまうと、かえってグリーンウォッシュを増幅させてしまうリスクもあります。そうしたケースではむしろ、意匠性・象徴性・快適性などの側面に特化させた方が誠実な場合もあるのです。
また、ミティゲーション (回復) の概念にも触れ、生態学的に真にポジティブなことがなんなのかを、そもそも定義すること自体の難しさについてもお話されました。 近年では、開発によって失われた生態系を元に戻すことが正義とされたり、都市部で与えた負荷を他の地域で補う=オフセットが言われることが多くなっています。しかしながら、生態系への影響を「回復」させるとは、いったい何を基準に決めるのでしょうか?別の地域で植林などをしたところで、都市部の生態系に与えた影響は不可逆です。とはいえ、人が一切住んでいなかった近代以前にまで戻すことは現実的ではないでしょう。 In-Kind / Out-of-Kind (同種の種構成で補償 / 異なる種構成で補償)、 On-site / Off-site (影響地と同じ場所で補償 / 他地域で補償) といった概念によって、実際の「回復」の仕方や程度は大きく変化します。 こうした事実を踏まえ、設計の際にどんな手法をどう組み合わせ、合意形成を行うのか。今後は学術的な観点と融合したデザインプロセスが求められてくるでしょう。
独自の立脚点にもとづくフィールドワーク
今回も第一回目に引き続き、赤坂インターシティAirの緑道を対象とするフィールドワークを実施させていただきました。 二回目のフィールドワークでは、「どこに課題意識が持てそうか?」「どんな切り口で敷地を見ると面白そうか?」など、次回以降で取り組んでいく問いを独自に提案することがゴールです。そのため、参加者には自身の立脚点を決め、独自の問いを立てることが求められます。
実際、参加者の中からは、「敷地の計画や植栽がつくりだす風に注目して、生態系への影響を考えられないか?」というアイデアや、「ベンチの下の環境が生き物にとってどんな効用をもたらすか?」といった、独自の視点による様々な気づきが生まれていました。

BIOME 多賀さんによるレクチャー
後半では、生物多様性のデータプラットフォーマーとして日本最大の基盤をもつ、株式会社バイオームの多賀さんよりレクチャーしていただきました。
世界に存在する生き物の種類は累計500万種以上、その市場価値は3,800兆円とも言われ、生活から産業に至るまで、私たちが享受するあらゆるサービスを支えています。 ところが、ネイチャーポジティブが広く言われるようになった今でも、生物多様性の保全には次のような課題があるといいます: ①トップダウンな政策などのスケールが多く、一人一人が何をすればいいのか分からない。取り組むハードルが高いし、実感しにくい。 ②生物多様性を調査するのは難易度が高く、数値化が難しい。そのため価値を測るための適正な指標がない データがないために価値化が進まず、現行の経済では自然環境を破壊するほどにお金が儲かる構造となってしまっている。そこで、生物多様性をビジネスの土俵に乗せ、ビジネスと一体となって推進させていくこと、さらには、それをボトムアップで楽しく行っていくこと。「いきものを見つけて、記録し、共有する」いきものコレクションアプリ BIOMEは、そのような発想で生まれたといいます。
BIOMEは現在、約120万人のユーザーが使用し、その累計発見個体数は1,000万件を超えているといいます。この膨大なデータ量はもちろん、収集された時期も比較的新しく、国内では唯一無二のデータインフラと言えます。 日本最大級の生物データと、それを解釈可能な形に可視化することで、価値化を図ってきたバイオーム。しかし、データを納品した先のランドスケープ設計においては、次のような懸念を抱くことが多いといいます。
- 「ナミアゲハのためにミカンを植える」問題
- ナミアゲハが指標種として選ばれたときに、それを誘致するためにミカン科の植物を植えることは正しいのか?
- ミカン科が生育するような半日陰の林縁環境等を再現することに意味があるのであって、ミカン科があればよいわけではない。
- そもそも、ナミアゲハの誘致が好ましいランドスケープなのか。近くにナミアゲハがいるので誘致するという考えでは、日本全国同じランドスケープを目指すことになってしまう。地域本来のヒストリカルコンディションや、足りない生態系を考慮する必要があるのでは。
- その植栽種の分布にあてはまっているのか?遺伝的攪乱は問題ないのか?
先の片野さんのレクチャーのミティゲーションの議論の中でもあった通り、人間の自然へのどんな介入も、不可逆的で複雑な変化を起こす可能性があり、単純なKPIに終始してしまうことの危険性について考えさせられました。

ディスカッション:人間と生き物の交わり方をデザインする
veig 片野さんとバイオームのレクチャーでは一貫して、生態系を人間が扱う際の複雑さや、そこに介入していく際の難しさが論じられていたように思えます。そこで最後に、「生き物の視点から都市をデザインする」ための準備運動として、次のようなお題でディスカッションを行いました。

終わりに:第三回・第四回のあらすじ
残る第三回目・四回目では、具体の提案をアウトプットすることを念頭に、本格的なリサーチ・デザインに移っていきます。
#3 10月9日 15:00-18:00 Collecting Data / Quick Prototyping|データや新たな知見を集積し、アイデアを素早く検証する #4 10月22日 15:00-18:00 Advancement|得られた知見を発展させ、具体のデザインへとつなげる
「生き物視点」を通じて認識をアップデートするところから始め、それを足掛かりに新たな設計やデザインを生み出すこと、また、定量的・客観的な表現手法にも頼りながら、都市に実装していく上での実効性を高めていくこと。 本プログラムでは、生物多様性やインクルーシブに着目したデザインのプロセスを、各分野の最先端のゲストに導かれながら、全4回のシリーズを通して体験することができます。第三回以降の応募はこちらから。