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「実際にやったらこうならないよね」の言葉から始まった、障がいを超える関係性のデザイン|インタビュー#2 北林栞|ASIBA
ASIBA Creative LeagueINC-2ND2期生インタビュー

「実際にやったらこうならないよね」の言葉から始まった、障がいを超える関係性のデザイン|インタビュー#2 北林栞|ASIBA

 建築・都市・デザイン領域で新たな未来を描く若きクリエイティブアントレプレナーに、これまでの活動の原動力や、抱えてきた悩み、それらをどう乗り越えて1つのプロジェクトへ昇華させてきたのか、「軌跡」に迫る本企画。第2回はASIBAのインキュベーション2期生で、プロジェクト「Enoniwa」の代表・北林栞に話を聞いた。(聞き手=安部道裕)

北林栞(きたばやし・しおり) 2001年生まれ。長野県松本市出身。建築学生兼イラストレーター。小さいころから絵を描くことが一番好きで、自分が描き起こしたシーンを実現させるために建築を学んできました。ダウン症の弟が社会から孤立している様子を見て、アートを通じてさまざまな関わり方を見つけたいと思うようになり、福祉の分野にも手を伸ばし始めました。

──北林さんが代表となって進めている「Enoniwa」はどんなアプリなのでしょうか  「Enoniwa」は知的障がい者の人と共に絵を描くことができるお絵描きツールです。アプリを起動すると誰かが描いた筆跡が再生されます。それを頼りに線を追いかけたり、なぞったり、付け加えたり...。2つの筆が自然と呼応し、想定外の絵が生まれてきます。絵を描くことを通じて障がい者とコミュニケーションを取ることを目指しました。

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──このプロジェクトに至るまで、どのような活動をされてきたのかをお聞きしたいと思います  まず自己紹介から、私は2025年3月に東京理科大学大学院を卒業して、4月からは建築の意匠設計の事務所で働き始めます。イラストレーターとしても活動していて、ミュージックビデオのイラストなどを手掛けています。

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 障がい者との関係性を考え始めたきっかけはダウン症を持つ弟です。身近に知的障がいを持つ人がいることで障がい福祉の分野に興味を持ち始め、弟の通う養護学校を見学したこともありました。その時に、障がい者施設は閉鎖的な環境だという印象を覚えました。弟は外交的な性格でいろんな人と話すのが好きなんですが、通っている施設では外の人と関わる機会が少なかったんです。「もっと他の人と会いたい」と言っている弟の言葉を聞いて、障がい者と街の人が関われるような空間があるべきだと考え、学部の卒業設計では障がい者施設の設計に取り組みました。

 ではどのように街と接続するのが良いのか、そこで注目したのがアートでした。障がい者の施設での活動は、絵を描く、工作をする、歌を歌う、ダンスを踊るといった創作活動が多いのですが、障がい者にとって日常的なアートを用いて、知的障害者と社会の境界をほどくことを試みました。

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──卒業設計に取り組む中で感じたこと、見つけたことはありましたか。  障がい福祉の持つ課題を建築で解決する、これを形にできた卒業設計でしたが、1つ引っかかることがありました。それは、講評会で言われた「作品だから良い感じに見えるけど、実際にやったらこうはいかないよ」という言葉。じゃあ社会で本当に実現するとしたら、どうなるんだろう、と思っていました。

卒業制作を実現するぞ! と意気込んだものの…

──Enoniwaのプロジェクトはどのように進んでいったのでしょうか   最初は「卒業制作を実現するぞ!」と、ASIBAのインキュベーションプログラムに参加しました。プログラムが開始して早速、障がい者施設などにヒアリングをする中で「施設の中の活動や、どういう人が暮らしているのかが周りの住人が分からないために、クレームが来たり、障がい者を建設するのを反対されたりする」という事情を聞きました。お互いを知らないことから起きる衝突があることが分かったのです。

 そこで「お互いのことを知ることができれば良いんだ」と考え、障がい者施設の人に「地域の人と関われる場所を作りたい」という提案をしました。しかし「関わる場所があるに越したことないけど......」という、心の底からは欲されてないことが分かるような返答で、芳しい反応は得られませんでした。卒業設計と同じようなアプローチでは、うまくいかなかったのです。

 そこで方針転換し、空間を設計するのは辞め、視野を広げて良いアプローチを探しました。が、なかなか良いアイデアが浮かびませんでした。方向性について悩んでいたある日、弟と2人で一緒に絵を描くことになりました。同じ紙の上で自由に絵を描き始めたのですが、丸を描いたところに弟が顔を描いたり、 反対に弟が描いたところに私が色を塗ってみたり、あるいは弟の筆跡を真似したりと、息を合わせて筆を運んで行きました。ここで気付いたのが「言葉は発してないが、紙の上で筆と筆同士でコミュニケーションが取れている」ということでした。これだ!と思いました。弟との体験から着想を得たEnoniwaは最終的に、絵を描くことを通じて障がい者とコミュニケーションを取ることを目指したアプリの形に落ち着きました。

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──弟と絵を一緒に描いた経験から始まったのですね。なぜ最終的に筆跡を録画して再生するアプリの形にしたのでしょうか。  障がい者の人と一緒に絵を描くイベント、のような形にしなかったのは、障がい者の特性からです。例えば「このイベントを定期的にやります」などとすると、ある頻度で何時にここに集まって、みたいな安定した活動を強いてしまいますが、それは障がいを持つ人にとっては負担になってしまいます。そのため障がい者の筆跡はデータ化しました。筆の速さや間合いまで保存したのがポイントで、筆の運びが速い時は「急いでるな」とか、間合いが空いてる時は「考えてるのかな」といった、描いている時の気持ちや状態に意識を寄せることができます。

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──最後に、北林さんの描く未来について教えてください  今の時代、障がい者差別は減ってきましたが、逆に障がいを持った人に過度に気を使ってしまう現状があると思います。お互い気を使い合うことは必要ですが、気を使われ過ぎることもまた、心が落ち着かない状態を招きます。障がい者は、他の人と友達のようにフラットな関係・状態になれる瞬間が少ないのです。Enoniwaは筆を介してフラットにコミュニケーションが取れるのが良いところで、そういう瞬間がもっと日常的に増えていってほしいと思っています。  「障がい者と私たち」という構造をつくっていましたが、分ける必要がないことに、今は気付きました。誰でも筆跡を録れて、誰でも一緒に絵を描ける、そんなコミュニケーションツールにしていきたいと思います。


 一般社団法人ASIBA(https://asiba.or.jp/)は、クリエイティブ領域に身を置く30歳以下を対象として「問いと実践を往復するクリエイティブ・アントレプレナーシップ」を育み、社会実践を目指す、ASIBA Creative Incubation Program 3期を2025年4月から開講いたします。

<募集期間> 募集期間は以下の通りです。 プレエントリー期間と本エントリー提出期間が異なるため、ご注意ください。

プレエントリー締切:2025/4/9 18:00 本エントリーフォーム提出締切:2025/4/9 23:59 選考結果の通知:2025/4/12まで

詳細については次の記事をご覧ください。