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「クリアン」概念を共創する手法 ― Behind the scene of “30 Questions on Creative Entrepreneurship”|ASIBA

「クリアン」概念を共創する手法 ― Behind the scene of “30 Questions on Creative Entrepreneurship”|ASIBA

2025年7月に開催した法人向けコミュニティイベント「ASIBA ATLAS #03 Creative Means More」では、パートナー企業や取引先企業のご担当者、ASIBA Creative Incubation Program 3期生など約50名とともに、クリエイティブ・アントレプレナーシップとは何かを考えるワークショップを実施しました。本記事では、このワークショップの企画・設計を担当した髙野さんと中條さんが、ワークショップ設計の舞台裏について振り返っていきます。

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ワークショップの実施内容やクリエイティブ・アントレプレナーシップの議論については、こちらからご確認ください。

対談者の紹介

髙野広海:一般社団法人ASIBA Producer、ASIBA ATLAS企画担当、東京大学工学部都市工学科 中條麟太郎:東京大学大学院学際情報学府 博士課程、ワークショップ設計・ファシリテーション

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対談

ASIBA の活動を体感してもらうための「ワークショップ」という形式

中條:そもそもこのイベントで、なんでワークショップをやろうっていうことになったのかから聞きたいんです(笑)。5月20日時点の1番最初の企画書だと、トークセッションをやることになっているんですよね。

髙野:当初ATLASは、最近ASIBAがやってきた仕事をどうやって関係者の皆さんに伝えようか、というところから企画が始まりました。もともとASIBAは若手向けのインキュベーションから始まっていますが、徐々に企業や自治体向けの仕事が増えてきたのに、それを全然発信できてないなくて、未だにインキュベーションだけをやっていると思われてる方が多かったんです(笑)

一斉にリリースするなら、とりあえずイベントをやろうと。ASIBAの活動は本当に多岐にわたっているのですが、どんな仕事をしているか、どんな仕事ができるのかを伝えるだけでなく、その根底にある考え方や一貫性も見せたいと考えていました。

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それで、最初はトークセッションだったんですが、こうしたイベントの一番の価値って何だろう?って考えていた時に、前回のATLAS(2024年12月に開催)の議事録を読んでいて、イベント後に参加者の皆さんからいただいた事業へのフィードバックが、その後のASIBAにものすごく取り入れられていることに気づいたんです。僕らが分からないことをとりあえず開示してみて、教えてもらうことに価値があるんだとしたら、クリアン(Creative Entrepreneurship)をみんなで考えるイベントにしちゃおうと。

クリエイティブアントレプレナーシップとは何か?分からないからこそワークショップに

中條:クリアンについて軽く説明しないといけませんね。

髙野:そうですね、ASIBAでは、自ら問いを立て、社会との接点を構築し、具体的な行動を通じて社会に新たな選択肢を提示していく姿勢のことを「Creative Entrepreneurship」と呼んでいます。これまで文化を生み出してきた建築家やデザイナー、アーティスト、職人、技術者たちは、自らの社会への問いやものを作ることへの好奇心を形にし、社会に提示し続けることで、明らかではなかった問題に挑んだり、社会変革を生み出してきました。そのようなアクションを増やすことで、不確実で複雑な社会の問題を解決できるのではないかと考えています。

中條:クリアンについては、最初別の企画として「クリアン50の問い」をやろうとしてましたよね。

髙野:そうなんです。クリアンとは何か、ということは社内でもなかなか言語化できていなくて。共同代表の森原とよく話していたのですが、いろんな人がいろんなクリアンを考えるはずで、クリアンとはその輪郭として立ち現れるものなんじゃないか、という感覚がずっとありました。たまたまゴールデンウィークに合宿していたときに、「篠原一男 空間に永遠を刻む―生誕百年 100の問い」の広告を見て、とりあえず問いを50個出してみようってなったんです。それで、試しにASIBAの内部で問いの答えを書いていったんですが、1 個 1 個の問いが抽象的で難しすぎたので、全く進まなかった(笑)。

中條:自分はワークショップをやることが決まってから企画に加わったのですが、そもそも「クリアン」ってなんですか?と聞いても、髙野さんも森原さんも全く答えてくれなくて(苦笑)。

髙野:結局のところ、我々自身もまだクリアンが何なのか分かっていない(笑)。理性的に説明しようとしても、今の我々では論理的に詰めていくと破綻が見えてしまう。だったらみんなと一緒に考えるしかないなと。

分からないからこそ、ワークショップをやる意味がある

髙野:ワークショップを企画する上では、「なぜクリアンが必要か」という Why の部分だけはみんなで共有した上で、クリアンとは何か?何をする人なのか?といった「What」をみんなで立ち上げに行く。「Why」じゃなくて「What」を考えてもらえばいいという気づきがすごく大事だったと思います。

中條:我々も分からないので、みんなで探していきましょうというスタンスが、すごくよかったですね。

髙野:我々が分かってたらワークショップやる意味がないですからね。でもそれって、一般的なムーブメントの作り方とはちょっと違うと思うんです。誰かが本で書いて定義するところから始まるのではなくて、概念をコピーライティングして、枠と考え方だけ提示して、その中でいろいろな人に考えてもらう。経験値の少ない若手だからこそ、いろんな人に乗ってもらえる工夫が、ムーブメントの作り方として必要だと思っています。

中條:『スマートシティとキノコとブッダ』方式ですよね。

髙野:あとは「生環境構築史」『戦後空間史』なんかも近いです。それを少数の知識人によるアカデミックで重厚な対談形式ではなく、多様な領域の人と一緒に瞬発的なワークショップでやってしまおうというのが今回のユニークなところですね。

ワークショップ設計の試行錯誤:実践を繰り返しながらブラッシュアップ

髙野:ワークショップの具体的な設計もすごく紆余曲折がありましたね。

中條:最初は、クリアンに関する問い自体をみんなに考えてもらって、それを別の人に渡して今度は答えを書いてもらう、というプロセスを繰り返し行おうと思っていました。ASIBAが1年半前に実施した「NEW NODE Workshop : これからのモビリティが作る移動と結節点」というワークショップの話を聞いていて、未来的なことについては問いを考えるプロセス自体にも価値があるんじゃないかという仮説があったので。あと答えは「Interactive Sketch」という、絵が得意ではない人でもビジュアルにアイデアを見せられる手法を使って表現してもらおうとしていましたね。

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髙野:でも社内でテストプレイをした時に、「クリアンってそもそも何だ」ってみんなから言われて(笑)、あと抽象的なことをスケッチするのもめちゃくちゃ難しかった。

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中條:そもそも何について議論してほしいのかが曖昧な状態で、問いを作れるわけがないんですよね。そこで、問いはこちら側で事前に用意しておいて、それに答えてもらう、という形式にすることにしました。

髙野:中條さんが生成 AI と対話しながら問いを大量に作ってくれて、それを元に 2 人で選んでいきましたね。これは答えにくいとか、これは議論が広がりそうとか。中條さんの言ってくれた「答えやすくて、議論が広がる問い」というのがポイントでした。

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中條:その後もテストプレイを何度もやりながら、ブラッシュアップを繰り返していきました。2つ目の大きな変更は、1 問 90 秒で答えてもらうようにしたことですね。最初は、1 問 4 分でちゃんと考えて答えを書いてもらおうと思っていたのですが、テストプレイのときに時間がなくて90 秒でやってみたら、案外この方がいいじゃんって。

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髙野:それぞれの問題が難しいので、長く考えてもいい答えを出せるとは限らない。それよりは、90 秒で直感で書いてもらった方がやりやすいし、そこで完璧な答えが出ないのは当然で、議論を触発するような答えが出ればいいよね、という意図でしたね。あとは1つの問いに対してグループ内で2つ以上の答えがあると議論が盛り上がりやすくなると思い、それも設計に組み込みました。

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ギャラリーウォークの偶然の発見

髙野:ワークショップの手法としては「ギャラリーウォーク」がよかったですね。

中條:ギャラリーウォークは、並行して日本デザイン振興会さんと一緒に企画していた「New Hope Idea Workshop #1」でやったものを参考にしています。グループで書いたカードを机に並べた上で、全員が立ち上がって歩きながらそれを読むことで、1つのグループを超えて議論の内容や成果を共有するという方法です。

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理論的な観点で言うと、アクティブラーニングの技法の1つである Think-Pair-Share という方法論を援用しています。つまり 1 人で考えて、ペアもしくはグループで議論して、それを全体で共有するという 3 段階のプロセスをちゃんと踏ませることで考えが深まっていく。ギャラリーウォークは最後の共有のところにあたります。

髙野:普通の全体共有って、一部のグループの議論を紹介して終わってしまうのがもったいないですよね。それを、ギャラリーウォークの中で、他のグループのカードセットを選んで自分のグループに持ち帰ってもらう、というデザインにしたことで、全体を見たうえで自分なりの立場を取ることまで自動的に組み込めたと思います。

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中條:そうなんです。カードセットを選んだあと、その議論に対する自分なりの応答を「答えカード」に書いたうえで、最後にもう1回グループで共有とディスカッションをして終わる、という設計でした。

髙野:個人 → グループ → 全体 → 個人 → グループという流れが短い時間で効果的にできていましたよね。

中條:実はギャラリーウォークには、ワークショップで頭を使って疲れている参加者に、立ち上がって歩いてもらうことでリフレッシュしてもらう、という意図もありました。あと、これは設計時には気づかなかったのですが、気になったカードセットを持ち帰らせることで、時間が経つにつれて自然にカードがなくなっていて、時間になったら自然と自分のテーブルに戻ってくれていました。通常こういったセッションはタイムキープが難しいのですが、思わぬ副産物でした。

手作りのワークショップカードが生んだ質感

中條:須藤さん(ASIBA Design Engineer)がリソグラフでカードを作ってくれたのもすごくよかったですね。机の上にカードがまずたくさんある状態からイベントが始まって、そのカードをみんなで書きながら見せながら議論することで、ワークショップの物理的な手触り感をちゃんとカードが担保できていました。

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髙野:サイズ感もいろいろ議論しましたし、何より質感が良かったですね。ペラペラ紙だったら絶対あんなにみんな書いてないと思います。

記録と今後の展開

中條:参加者の方に書いてもらったカードを、持ち帰る前にこちらでスキャンさせてもらったところ、合計 350 枚以上のカードがデータになりました。

髙野:多分、スキャンせずに家に持ち帰ってしまった人もたくさんいると思うので、実際はもっとたくさんのカードを書いてもらっていたはずです。あとは、それぞれのグループでの議論は録音してもらっているので、その録音データも上手に使いながら、みんながクリエイティブ・アントレプレナーシップについて何を考えて語っていたのかを明らかにしていけたら面白いなと思います。

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中條:今回だけで終わらせるのがもったいないぐらい、いいワークショップになったと自負しています。もっと色々な人と一緒に考えたいですね。

高野:カードの内容を読んでいても、ものすごくたくさん発見があるんです。参加者それぞれが多様な視点を持ち寄り、多面的な答えをみんなで探求したことで、実りあるワークショップができたのだと思います。これからも、さらに多くの人々を巻き込みながらこのテーマについて考えを深めていきたいですし、そこでまとまった思想をきちんと実践に移していくことこそが、私たちASIBAの使命だと考えています。これからも皆様と一緒に新しい挑戦を続けていきたいです。

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「クリエイティブ・アントレプレナーシップとは何か」という問いに対する答え探しの先に、最終的にたどり着いたのは「答えのない問い」との向き合い方そのものでした。問いと実践を往復し、徐々に解像度を上げていくこと。そして多様なステークホルダーに問いを開き、巻き込みながら一緒に考えること。不確実で複雑な社会課題に向き合うことは、そうした姿勢から始まるはずです。

今回のワークショップで得られたカードは、ASIBAのPodcastなどでさらに議論を深めていく予定です。今後もASIBAと一緒にクリアンについて考えていただけると嬉しいです。

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ワークショップ概要

「Creative Entrepreneurship(クリアン)」に関する30の問いを通じて、参加者から多様な答えと対話を引き出し、概念の輪郭を参加者全員で探る共創型ワークショップ。

⓪事前準備 各グループの机にA7の「問いカード」を10枚置き、裏返して並べる。またA6の「答えカード」「議論カード」をそれぞれ30枚ずつ準備する。 ①アイスブレイク 「クリアンという言葉を聞いて、最初に何を思い浮かべましたか?」を記入し、4人1組で自己紹介する ②個人ワーク1 机の上から問いカードを1枚選び、90秒間で「答えカード」に回答することを、5回繰り返す。 ③グループワーク1 グループ全体で回答が多かった問いカードを4枚選び、それぞれについて4分間で議論する。議論を通じて考えたことは「議論カード」に記入し、問いカード1枚に対して「答えカード」「議論カード」数枚ずつのセットをつくる。 ④ギャラリーウォーク カードセットをテーブルに置き、他のテーブルのカードを見てまわる。気になったカードセット1組を持って帰る。 ⑤個人ワーク2 持って帰ったカードセットに対し、自分なりの答えを「答えカード」で記入する。 ⑥グループワーク2 1人ずつ持って帰ったカードセットと自分の答えを説明する。聞いている人は「議論カード」を使ってコメントを付け足す。

ワークショップ終了時には、計350枚以上の「答えカード」「問いカード」が作成されました。カードセットはワークショップ終了直後にスキャンし、穴をあけたうえで、参加者それぞれのZINEに綴じて持ち帰っていただきました。