
Tokyo Futurescape Studio #02 「水道道路×コミュニティラジオ」at ササハタハツ 開催報告|ASIBA
6月14日(土) 14:00-18:00に、渋谷区ササハタハツエリアの水道道路にて、ササハタハツまちラボ様の協力をいただき、AIを触媒として2040年のコミュニティラジオを作るワークショップを行いました。
1. 本ワークショップシリーズについて
本企画は、東京の50年後、100年後の風景を探索的に描き出す「Tokyo Futurescape Studio」シリーズの第2回です。

私たちは課題解決そのものよりも、ローカルな可能性を探索するブリコラージュ的なプロセスによる発見と、それに基づいた「プロジェクト」を大切にしています。ASIBAでは、ソーシャルイノベーションやデザイン研究の第一人者であるエツィオ・マンズィーニの唱える、「プロジェクト」(=既にある状況を問い直し、望ましい未来の姿を構想し、それに向かって具体的な変化を起こすこと)に倣って、その端緒をつくる実験として、本シリーズを位置付けています。
そして今回は、課題解決型から未来洞察ドリブンに転換する方法論としてAIを活用できるのか?という問いを基に、街の未来像を描くプロセスそのものにおいて、AIをはじめとするテクノロジーが、多様な声をつなぎ合わせる新しい媒体になり得るかを探りました。
対象となる地域は、渋谷区北部を走る水道道路沿線です。このエリアは並行して走る京王線の笹塚・幡ヶ谷・初台駅の頭文字を合わせ、「ササハタハツ」エリアとして、「ササハタハツまちラボ」によるエリアマネジメントが行われています。今回はまちラボの皆様の協力をいただき、ワークショップを開催することができました。
ササハタハツまちラボとは
渋谷区、京王電鉄株式会社、一般社団法人渋谷未来デザイン及び東急不動産株式会社から構成され、 京王線笹塚駅・幡ヶ谷駅・初台駅周辺のエリア「ササハタハツ」を魅力的なまちにしていくための組織です。エリアでの暮らしの質の向上を目的に、関わりたくなる「場所」と「仲間」があるまちを目指して活動しています。(https://www.sasahatahatsu.jp/)
2. ワークショップの概要
場所に刻み込まれた記憶や痕跡、生業は目に見えずとも確かな実感として街の中に息づいています。ワークショップの開催地であるササハタハツエリア(笹塚・幡ヶ谷・初台)も例外ではなく、東西に貫く水道道路には、地図や統計には現れない日常の感情や思い出が根付き、地域の風景を形作って来ました。しかし、これらの声なき声は、効率性や経済合理性を前提にした都市計画・都市開発の枠組みからはこぼれ落ちてしまうものです。私たちは、この見過ごされがちな声を拾い上げ、未来のまちを描くために、コミュニティラジオというメディアを選びました。
コミュニティラジオは、住民自身が主体的に作り手となり、小さなエピソードや地域の声を蓄積していく放送形態です。声が声を呼び、地域につながりを生む特性があります。また、ラジオは高齢の方を含め世代を超えて親しまれてきたメディアであり、誰もが参加しやすいインクルーシブなプラットフォームにもなります。
本ワークショップでは、AIを人間の創造性の触媒として活用させることで、これまで拾いきれなかった主観的な情報である記憶や感情を収集し、編み込みながら未来の水道道路を構想することを目指しました。

コミュニティラジオとは? 地域住民が主体的に情報を発信することを目的として運営される放送局です。地域に密着した生活情報や活動内容を直接共有できる媒体として位置づけられており、特にアナログテレビ放送終了後に制度的な整備が進み、全国的に普及しました。地域固有の出来事や営みを記録・発信する機能を担い、まちの実態や住民の声を継続的に可視化する役割を果たしています。
3. ワークショップ手法について
コラボレーターとして東京大学大学院の中條麟太郎さんを迎え、AIを触媒として人間の創造性を引き出すワークショップを設計しました。
中條 麟太郎 (東京大学大学院学際情報学府博士課程) コミュニケーションを円滑にするメディアデザインの研究と社会実装に取り組む。主な作品として、他種の生物の視点から非人間中心的な環世界の捉え方を探るワークショップ作品「Ecodentity Walk」(共同制作)など。 https://chujo.me
本企画の背景や目的、人間の創造性を引き出すAIのあり方について伺った中條さんへのインタビュー記事は以下からご覧いただけます。
問い
AIをはじめとするテクノロジーは、市民創発的かつ包摂的なまちづくりの実現にどう貢献できるのか?この大きな問いを出発点として、私たちは次の2つの課題を設定しました。
- テクノロジーによって、これまで意見が拾われてこなかった人たちのそれぞれの主観の間(=間主観)を見つけ、それぞれのストーリーを編み込んだ議論を行うこと
- テクノロジーによって異なるバックグラウンドを持つ市民同士の創発的な対話を促すこと
ワークショップ設計
現在の街の記憶を収集 → 2040年の未来を想像 → コミュニティラジオの発表という3段階で、記憶と未来をつなぐ体験設計を試みました。
①個人による記憶収集 街を散策しながら各々で現在の水道道路の思い出を収集する。収集された思い出から、街歩きでの気づきをシェアする。
②2040年の水道道路の想像 未来の街の姿を想像しながら、AIが作ったラジオ原稿を読み込みグループ内で加筆修正を加える。
③コミュニティラジオの発表 完成したラジオ原稿を参加者同士でDJになりきって発表する。
そこで、今回は2つのAIツールを新たに開発しました。
①記憶のカメラ
記憶のカメラとは、写真撮影後に自動で30秒間の音声を録音し、写真と音声をセットで保存できるアプリケーションです。当日は参加者同士で歩きながら、その街の好きな場所や瞬間を語り合いながら記録として残していきました。

②ラジオ台本生成AI
「ラジオ生成AI」は、テーマや街歩きでの写真を元にして、AIが本物のラジオ番組のような台本の下書きを生成してくれるシステムです。参加者はDJとなり、名前を決めて番組に参加します。テーマは「どうすれば、2040年にもっと〇〇なまちになるでしょうか?」という問いかけで、〇〇には「緑あふれる」「歩いて安心な」「世代を超えて人が集まる」といった多種多様なテーマを、AIに読み込ませ、それを元に原稿を生成してもらうことができます。
4.当日の様子
街の記憶をパシャリ!街歩きタイム
まずは、笹塚エリア・幡ヶ谷エリアの二手に分かれてグループごとに街歩きを行い、各個人で水道道路の思い出を記憶のカメラを用いて収集しました。

普段見落としていた風景に、これまで感じ取っていた街のお気に入りのポイントや暮らしの中にある記憶を語りながら、メンバー間で互いに記憶を聴きあうことによって新しい視点を持ち帰ります。

街歩き感想シェアタイム
収集した思い出は、写真と音声情報のテキストがセットになった付箋サイズの紙に印刷されました。それをマップと照らし合わせて配置し、マッピングしていきました。各地点での気づきをチーム内で言語化しながら、街歩きの気づきをシェアしました。

収集されたのは、「この角を曲がるといい匂いがした」「昔ここには〇〇があった」といった街に根付く個人的な語りです。ここから、街にある無数の記憶の履歴を探り、ササハタハツエリアの街の総体を捉え直すことから、浮かび上がる街のらしさや在り方を知ることができました。

2040年のコミュニティラジオ制作タイム
次に、各グループは「どうすれば、2040年にもっと〇〇なまちになるか?」という問いに沿って、街歩きで撮影した写真や気づきをもとに話し合い、コミュニティラジオのテーマを設定しました。2040年は、日本の社会構造が大きな節目を迎える重要な転換点と言われています。人口構造の変化、社会インフラの限界、価値観のシフトという3つの変化が同時に起こるため、持続可能で質の高い暮らしを未来に残すには今から考えることが重要です。それを踏まえ、グループごとにラジオのテーマを決めてもらいました。テーマには「個性を発揮できるまち」や「自分で育てられるまち」などが挙がりました。

その後、AIにテーマを入力し、ラジオ台本を生成してもらいます。AIが生成するラジオ台本はあくまで叩き台です。参加者はその台本に手を加えながら、自分たちの言葉を紡ぎ、考えを深めていきます。AIの出力は、2040年の未来を想像したり、アイデアを膨らませたりするためのきっかけとなり、最終的には「自分たちの声」が反映されたオリジナルのラジオ番組をつくる手助けになります。

コミュニティラジオ発表会
完成したラジオ台本をもとに、参加者はラジオDJになりきり、コミュニティラジオの発表会を行いました。
実際に作られたコミュニティラジオ(一部) DJ:こんにちは、みなさん!今日は2040年の渋谷区・水道道路から、“自分で育てられる水道道路”をみんなで話し合いますよ。昔ののんびりした雰囲気も懐かしいですが、今は人も植物も、それぞれ自由に根を伸ばしてる感じですよね。 さて今日はスペシャルゲストとして、ササハタさん、ハツダイさんにお電話でつないでまーす!お二人とも、よろしくお願いします!まずは、ササハタさんから未来のお便りが届いてます。そのままササハタさん、読んでもらえます? ササハタ: 今日、水道道路の共育ちスポットで、通りすがりの人と一緒に「自分が世話したい花」を土に“記憶”させて育てる体験をしてきたんですよ。昔みたいに区画された花壇じゃなく、誰でも通っただけで土に思いや願いが残るんです。気付けば、小さな想いがつながって一年中いろんな花が“地域全体で勝手に”芽を出して、育ち合ってるんですよね。いやー、自分も自然も一緒に進化してる感じがして、すごく面白い時代だなって思いました! DJ: いいですねー、昔のラジオ体操みたいな花壇じゃなくなったんだ! あの、2025年頃の水道道路の写真を私も見てるんですけど、なんかレンガが無造作に置いてあって、「このレンガたちは何なんだろう」って住民の人が言ってたり、“みんなの庭”が完全に未完成のまま置き去りにされてたり。今の、誰でもいつでも土や植物とつながれる形、素敵ですよね。
演出の1つとして、DJ役の参加者は「渋谷区役所の未来まちづくり担当の方にお電話をつないで質問している」という想定で進行。たとえば、
DJ:「それでは最後に、渋谷区役所の未来まちづくり担当の方にお電話つないでいます!今日の議論を踏まえて質問です。酷暑や異常気象で人も植物もきつい夏が増えていますが、区としてこれから、水道道路の居場所や緑化をどうバックアップしていく予定ですか?」
と、ラジオ番組の中で質問する形を演じました。実際に会場にお越しいただいた、ササハタハツまちラボの区役所の方からリアルタイムに返答をいただいたことで、参加者は単に想像するだけでなく、リアルな行政の視点や制約も意識しながら議論を深められ、「自分たちの声」と現実の課題が交わる、臨場感あふれるラジオ番組を作る体験ができました。
5.参加者の感想
今回のワークショップには、大学生や大学院生を含む学生9名、町会や区議の方を含む地元住民9名、ササハタハツまちラボの3名の計21名が参加しました。世代や立場の異なる人々が同じ場に集まり、AIラジオを通じて街の未来について考えました。イベント終了後のアンケートでは、参加者全員が「とても良かった・良かった」と回答し、満足度は100%という結果になりました。また、街の見方や感じ方に関する様々な声が寄せられました。
・人々がつながる公共スペースを増やしたい!という意見がある中で、繋がることを望まない人もいるということに、AIラジオの台本を通じて気づくことができた ・若者が増えて住宅ニーズは高まっている一方で、建物が老朽化しており、すぐには更新が進まないのが悩ましいと感じている ・どんな形であれ、地域のつながりが見える豊かな暮らしが見える場所になって欲しいです。
6.今後の展望
今回のWSを通じて、人間の触媒としてのAIを用いてコミュニティラジオを作っていく過程は街の記憶を媒介する力を持つことがわかりました。個々の主観的情報を束ねることで多様な未来像が立ち上がり、議論は課題解決から未来の可能性探索へとシフトしていきました。この手法は、市民が自らの声を未来の都市像に結びつけるための有効な仕組みとなり得ると感じました。
今後は、「記憶カメラ」で得られた街の記憶や感性などの主観的情報をデジタルツイン上で再現し、街づくりのシナリオ検証に活かしていきたいと考えています。従来のデジタルツインは物理的・機能的データに基づき都市運営や防災を支えてきましたが、人々の経験や感情、文化的背景は捉えきれません。私たちが構想する「間主観的デジタルツイン(Intersubjective Digital Twin)」は、高齢者の語りや子ども時代の遊び場の記憶、日常の会話といった都市の“もうひとつの層”を収集・再構築し、他者の記憶や感情に触れる手がかりを提供します。
このデジタルツインは、単なる可視化にとどまらず、他者の記憶や感情に触れる手がかりを提供し、市民同士の共感や想像力を喚起するインターフェースとして機能します。それは過去・現在・未来をつなぐ物語的な構造を持ち、都市のもう一つの“記憶媒体”とも言えるでしょう。こうした都市メディア装置は、都市計画や空間設計の枠組みを超え、より包括的で人間的な都市像を描くための基盤となると考えています。
これにより、市民同士の共感や想像力を喚起し、過去・現在・未来をつなぐ物語的構造を持つ都市の“記憶媒体”として機能します。最終的には、住民一人ひとりが「都市の語り手」として参加できる新たな公共圏の創造を目指しています。そのため、AIを活用したワークショップ手法をさらに発展させ、自治体と連携した地域実践にも挑戦していきます。
参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。
ワークショップ概要
日時:6/14(土) 14:00-18:00 開催場所:水道道路沿道エリア 集合場所:笹塚区民会館(渋谷区笹塚 3-1-9) 主催:一般社団法人ASIBA 協力:ササハタハツまちラボ