
【特別インタビュー】生態学と建築都市デザインとの交差点 ― veig 片野さんに聞く|ASIBA
一般社団法人ASIBA(代表理事:二瓶雄太)は、日鉄興和不動産株式会社様、大成建設株式会社様との共催で、全四回からなる「生き物の視点で考える都市デザイン入門」を開講しています。 第二回は、9/26 (金) 15:00~18:00にて開催します。応募はこちらのリンクから。
※ 第一回 (9/11) の開催レポートはこちら
第二回では、MIT Media Lab で生物学の研究を行い、砂漠再生や都市生態系評価などに携わりながら、現在は造園ユニットveigとして活動している片野 晃輔さんにお越しいただきます。 生物学・生態学の研究から、建築・都市デザインへの接続を試みる片野さん。近年では建築都市のデザインでもネイチャーポジティブや持続可能性が重要視されつつあるものの、片野さんは生物・生態学の視座をもとに独自の考えを展開します。 本noteは第二回ゲストの片野さんへの事前インタビューです。
生き物の現象を解明していく面白さ
インタビュアー: 片野さんがMIT Media Labに入る前、中高時代はどんな学生だったんですか?
片野: もともとは機械が好きな工学少年で、科学部に入ってロケットとかエンジン、冷蔵庫の中の圧縮機みたいなものまで自作したりしてました。しかし、次第にそうしたエンジニアリングの視点で、植物や人体といった生物を見ていくことの面白さに気づきました。
例えばオジギソウという植物は、動物みたいに脊髄神経が通ってるわけではないのに、触れられたこと検知して体を動かします。そういった現象を科学的に解明していくのがすごく面白いし、生物にはメカニズムがよく分かっていない現象がまだまだたくさんある。だから、将来もそんな研究ができたら良いなと思っていました。

そういった興味もあり、高校時代から大学に出入りさせてもらい、ゲノム編集といったDNAに関わる研究を行っていました。そして、関心の高かったMITの研究室にアタックをした結果、研究員として就職することが決まり、そこで本格的に研究を開始できることになりました。
アメリカでのフロンティアを経験して
インタビュアー: アメリカでの生物学の研究はどんな雰囲気だったんですか?
片野: 自分が所属したときは、遺伝子を編集したり組み換えたりするバイオテクノロジーの手法が急速に進歩してきている頃で、まさにその最前線を体験できました。 もちろん、ビジネスサイドへの応用も盛んに行われています。ラボから特許を取得したスタートアップが生まれたり、研究室に多額のスポンサーがついて事業開発を企業と提携したりと、西海岸のITと肩を並べるかのように、東海岸では生物学の産業界からの期待が当時から非常に大きいです。
ただ、僕にとっては流石にちょっとビジネス感が強すぎたというか、少し資本主義に寄り過ぎている感じがしましたね。何百億円というような規模ではなくても、もっと生活に近くて、もう少し人間的なスケールで、多くの人に関係するような分野がやりたい。そう感じて、日本に帰って民間のラボに移ってからは、次第に生態学に注目するようになりました。
インタビュアー: 生態系や生物多様性の概念は馴染み深いですが、片野さんはどんな部分にポテンシャルを感じているのですか?
片野さん: たとえば砂漠化が進行した地域で生態系を復活させたり、開発されつつある都市の中で、そこでの植生を分析して、「そこにあり得たかもしれない生態系」を人間の手で実現させていったり。生態系を単に保全するというよりは、生態システムの本質的な部分に目を向けて、デザインしていくことに凄くポテンシャルを感じています。
特に、建築設計や造園で扱われるような、手触りのあるスケールの自然をデザインするときに、生態学の研究の知見を踏まえることで本質的に変えていけるようなことが、実はたくさんあると思っていて、それが今の造園ユニットveigでの活動にも繋がっています。


グリーン・ウォッシュへの危機感
インタビュアー: 生物学・生態学の研究をバックグラウンドに持つ片野さんが、今の建築・都市の作られ方を見てどんなことを感じますか?
片野: 最近は建築・都市のデザインの面で、ネイチャーポジティブや環境志向が強く言われるようになっていますが、逆に違和感を感じるときが少なくありません。学問的な関心はないのに、ただ生物・生態学の言葉を使って理論武装したいだけだったり、それ自体に生態学的な価値がどれだけあるかに疑問符が付くようなことが、ブランディング目的で行われている節があると思っています。
もちろん全てのケースで学術的な検証がされるべきとは思わないのですが、生態系に本当に与える影響とかがきちんとクリティークされずに、無法地帯のような状態になって誤魔化しが効いてしまうというのは、インテグリティ (=誠実さ) を欠くと思っています。
デザイナーと研究者が協業する社会
インタビュアー: パフォーマンスではなく、真に環境のことを考えたデザインが求められますね。建築・都市のアーキテクトや、デザイナーにとって今後重要なことは何だと思いますか?
片野さん: 最近ではTNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosures) などの指標が出てきており、生物多様性や環境への影響を客観的に定量評価することが、企業のガバナンスの上でも無視できなくなりつつあると思います。
とはいえ、設計者が必ずしも生物・生態学に精通すべきという訳ではありません。むしろ、得意じゃない分野で無理して理論武装するよりは、分からないところは研究者の力を借りて、一緒に仕事が出来るような状態が理想だと思います。研究者と協業しながら設計することで、たとえば民間の中小規模のランドスケープデザインのようなケースでもアカデミアの文脈に乗ってくるようになれば、すごく面白いと思います。
逆に、デザイナーには、自分ならではのオリジナルな問題意識を持って、それぞれの考えを突き詰めて欲しいです。ヒートアイランドとかカーボンニュートラルみたいな、既に世の中でよく言われるような課題設定に落とし込むだけではなく、立脚点を明らかにした上で、自分が望むものを自由に作っていくことで、デザインももっと面白く出来ると思います。
インタビュアー: デザイナーと研究者がお互いの良さを出し合うことで、べき論や既知の問題設定にとらわれずに、真にクリエイティビティを発揮できるのだと思います。ありがとうございました。
片野 晃輔 高校在学中にDNAメチル化の研究を行い、卒業後はMIT Media Lab Synthetic NeurobiologyグループおよびBroad Instituteにてゲノム研究に従事。その後、Sony CSLのSynecocultureグループ及び一般社団法人シネコカルチャーで砂漠再生や都市生態系評価などに携わる。現在は造園ユニットveigとしても活動し、学術的調査から設計・施工・コンサルティングまで包括的に取り組む。 また、企業や大学との共同研究・コンサルティングを通じて学術的知見の社会実装を支援し、新規事業開発などにも取り組んでいる。
