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「目的」で溢れる都市に、意味のない場所をつくる|インタビュー#4 中川優奈|ASIBA
ASIBA Creative LeagueINC-2ND2期生インタビュー

「目的」で溢れる都市に、意味のない場所をつくる|インタビュー#4 中川優奈|ASIBA

 建築・都市・デザイン領域で新たな未来を描く若きクリエイティブアントレプレナーの「軌跡」に迫る本企画。第4回は、工学院大学大学院の修士課程に在籍し、まちに「目的のない居場所」を仕掛けるプロジェクト「にっちのっく!」の代表・中川優奈さんに話を聞いた。(聞き手=安部道裕)

中川優奈(なかがわ・ゆうな) 2000年生まれ。生まれも育ちも神奈川。幼少のころからクラシックバレエ、演劇などの舞台芸術を学び、大学進学と共に建築を学び始める。東京・新宿という大都会に毎日のように通う内に、都市空間のつまらなさや空虚さに疑問を持つ。そして自身の卒業制作を元にプロジェクト「ニッチ ノック!」を立ち上げる。

──まずは個性的な名前のプロジェクト「にっちのっく!」についてお聞きしたいと思います  都市の中で、小さくて隠れた、居心地の良い角や隅っこ(ニッチ/ノック)みたいな場所をつくり、秘密基地のような空間「アジール」にこもって、ぼーっとできることを目指したプロジェクトです。

──そのような空間が都市に欲しい・あるべきだと思ったのはなぜでしょうか  現代の都市は「意味のある場所」ばかりですよね。オフィスや商業施設、道路、広場でさえも法令や規制、開発要件に縛られていて、何かしらの「目的」を持たされています。海外と比べて日本はその傾向が強いですよね。ヨーロッパの街には広場などの公共のスペースが充実していますが、日本にはあまりないように思います。  特に感じたのは学部4年の卒業制作に取り組んでいる期間で、毎日新宿にある大学に通っていたのですが、新宿には気軽にぼーっと過ごせる場所がないなと感じていました。都市に余白がなく、息苦しかったんです。

 そこで卒業制作では、秘密基地のような、ほっとできる場所を都市に散在させようと考えました。家電量販店の大型看板の裏側や、ビルの屋上、路地裏などを舞台にして小さいツリーハウスのような空間を構想しました。

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きっかけは不法投棄されたソファ

──単に、くつろげる空間やストリートファニチャーを設けるのではなく「秘密基地」にしたのはなぜでしょうか  不法投棄されたソファとの出会いがきっかけでした。自宅から最寄り駅までの間に、草木が自由に生い茂っている小さな空き地があるのですが、ある日2人掛けのぼろぼろなソファが現れたのです。木の根元にポイっと置かれ、周りが枝やツタ、葉でもじゃもじゃになっていたのですが、 お昼にゴロゴロして日向ぼっこでもしたくなるような空間が生まれたように見えました。それが子どものころにつくった秘密基地に似ているなと感じたんです。それで、卒業制作では秘密基地をつくろうと決めました。

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──なるほど。その卒業制作をプロジェクトで実現しようと試みたのですね  はい。私は「リアルで作る」という点をかなり意識して卒業制作に取り組んでいました。というのも、卒業制作では「壮大な社会課題を掲げて、大きな建物をデザインし、解決しました」という提案が多いですが、本当にそれで解決になるのかと疑問を抱いていたからです。

 コンセプト的にも「建築未満」な大きさであることにこだわっており、がんばればできそうなスケール感でデザインすることを意識していました。しかし、時間やお金の関係で卒業制作の段階では実寸で作ることができず、心残りでした。それで、実現を目指せるASIBAのインキュベーションプログラムに参加しました。しかし、直面したのは建築を実現すること難しさでした。

──どんな難しさがあったのでしょうか。  大掛かりな工作や屋上の活用を想定すると、ビルの所有者や建築基準法との兼ね合い、資金面など多くの課題が次々と浮上しました。そこで、ビルの所有者やエリアマネジメントをしている団体などと協同する方策などが挙げられました。エリアやビルを盛り上げるためのコンテンツとして、普段は入れない・入りづらいところに秘密基地を用意すると、人が集められるんじゃないか、というストーリーです。

 可能性はありそうだなと感じてはいたんですが、結局断念しました。というのは、この秘密基地がコンテンツとして消費されてしまう、つまり秘密基地が「目的化された空間」となってしまうリスクが考えられたからです。それは本来私が達成したいと考えていた空間とは違います。最終的には被り物くらいの、プロダクトスケールになりました。

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──プログラム終了後は、どのようにプロジェクトを進めているのでしょうか。  このままプロダクトとして発展させていく方向では進めていないのですが、大学院の研究室で、都市調査の方法として面白いんじゃないかと言っていただけて、もっと深めて修士論文のテーマにしようとしています。フィリピンと台湾、ベトナムの大学と毎年やっている学会のポスターセッションに参加して意見をもらったり、あるいは3年生のゼミのテーマに使ったりして、考えを膨らませているところです。

──実践が研究に結び付いているのですね。最後に、中川さんの描く未来の都市について教えてください  人々が自由に街を使える状態が理想だと思います。昨年東南アジアの国、ベトナムやフィリピンに行ったのですが、多くの人が路上で過ごしているのが印象的でした。家の前の道路にビーチとかで使われるようなソファを置いて、ただただぼーっと過ごしていたり、近所の人と立ち話をしてお酒飲んで過ごしていたり。都市を自由に使っている姿が目に焼き付いています。    日本では道路は「移動するための空間」でしかないですよね。そうではなく、色々な使い方が許容される、隙があるような街が理想だなと思います。


 一般社団法人ASIBA(https://asiba.or.jp/)は、クリエイティブ領域に身を置く30歳以下を対象として「問いと実践を往復するクリエイティブ・アントレプレナーシップ」を育み、社会実践を目指す、ASIBA Creative Incubation Program 3期を2025年4月から開講いたします。 <募集期間> 募集期間は以下の通りです。 プレエントリー期間と本エントリー提出期間が異なるため、ご注意ください。 プレエントリー締切:2025/4/9 18:00 本エントリーフォーム提出締切:2025/4/9 23:59 選考結果の通知:2025/4/12まで 詳細については次の記事をご覧ください。